FMくらら857の生中継でデイサービス施設「高次脳機能障害対応型リハビリティ Re:Start」を訪問していたパーソナリティ・片柳さんとご一緒し、私もその中継の様子を現地で見学させていただきました。
中継では、代表(社会福祉士)の新村さんや看護師の江田さん、介護士の加藤さんに加え、利用者の方にもお話を伺い、現場の雰囲気を直接肌で感じることができました。笑顔と会話が飛び交う明るい空間。専門職が互いの枠を超えて連携し、利用者一人ひとりに寄り添ったリハビリやケアを提供している姿がとても印象的でした。
「ここは、ただの通所介護施設ではない」――そう感じたのは、取材の間ずっと「居場所づくり」という言葉が繰り返されていたからです。単なる介護にとどまらず、心の支えとなる場所を目指す取り組みの背景には、見えにくい障害や孤立といった社会的課題への深いまなざしがありました。
そこで、今回は「Re:Start」が向き合うテーマのひとつ、高次脳機能障害について、そして「居場所とは何か」について、代表の新村さんと看護師の江田さんに改めてお話を伺いました。
“気づかれにくい”からこそ支えが必要 高次脳機能障害と向き合う日々
江田さん:
高次脳機能障害は、外見からはわかりにくい「目に見えない障害」です。記憶や言語、感情のコントロールに影響が出ることが多く、たとえば気分が落ち込みやすくなったり、怒りっぽくなったりします。もともとは穏やかだった方でも、そうした症状が出ることがあります。
新村さん:
「なんでこんなことができないの?」と周囲に思われやすい障害なんです。そのため理解が得られにくく、社会から排除され、孤立してしまうことがあります。家族も疲れ果てて関わりたくなくなってしまったり、地域の人からも「ちょっと変な人」と見られてしまったりすることもある。ご本人は感情をコントロールできず、好きなことだけに偏ってしまい、栄養が偏って入院することもある。最悪の場合、誰にも看取られず亡くなってしまい、遺体の引き取りに来る人すらいない。そういった現実を、私は実際に見てきました。
江田さん:
もし周囲が「これは病気のせいなんだ」と理解してくれれば、本人も家族も救われると思うんです。でも、障害に気づかない人が多い。そうすると、「あの人、なんか変」と思われてしまう。家族は事情を説明されているかもしれませんが、サポートがなければ家族もどんどん疲弊してしまう。だから地域で「これは障害のせいなんだ」と共有できて、温かく接してもらえるようになればと思っています。
高次脳機能障害は治りにくい部分もあります。家族がサポートできる場合は良いのですが、そうでない方もたくさんいて、一人暮らしの方は社会とのつながりを失ってしまいやすい。薬をきちんと飲んで、たばこもやめたとしても、仕事に戻れるかといえば現実は厳しいんです。すると「やることがない」となってしまう。退院後に訪問すると、「ちゃんと薬は飲んでるけど、たばこはやめられない」と言われます。「なんで?」と聞くと、「やることがないんだ。仕事ができるなら仕事するんだけどな」と返ってくる。
退院前に行政サービスを調整して「これで生活できそうですね」と話しても、実際にはそれだけでは足りないことが多い。病院の中では見えてこなかった「暮らしにくさ」が地域に戻って初めて明らかになる。だからこそ、地域でそうした方と出会ったら、少しでも話を聞いたり、よりどころになれる場が必要なんです。
高次脳機能障害のある方でも、環境が整えばちゃんと生活できます。でも逆に、環境が整っていないと、どんどん悪くなってしまう。もちろんどんな病気も本人の努力は必要ですが、高次脳機能障害は、本人だけの力ではどうにもならない部分があると思います。
江田さん:
高次脳機能障害と認知症は、まったくの別物というわけではなく、重なる部分もあります。たとえば、脳血管障害があると、認知症と診断されることもあります。ただし、高次脳機能障害は記憶や判断力といった認知機能が保たれていることもあり、認知症とは異なる特徴を持つ障害です。
新村さん:
アルツハイマー型認知症では、脳全体が徐々に萎縮していきます。一方で、高次脳機能障害は脳の一部に損傷が起きるもので、たとえば交通事故や脳卒中などが原因になることが多く、若い方でも発症する可能性があります。こうした発症の仕方や症状の出方も、認知症との大きな違いです。
ということは、来られる方はいろんな年代の方なんですか?
江田さん:
そうですね、60代の方もいらっしゃいます。家の中で閉じこもっているよりも、ここに来るだけで社会とつながることができる。ご本人も気持ちが前向きになりますし、ご家族にも時間の余裕が生まれます。お互いにとって良い効果がありますね。
ここでは、少し身体を動かしたり、スタッフや他の利用者とおしゃべりしたりするだけでも意味があると思っています。利用者同士もとても優しくて、「お互いさまだよね」という気持ちが根底にあるんです。この前も、外出の際に利用者さんが他の利用者さんの手をそっと引いてあげる場面がありました。
もちろん転倒などのリスクがあるので私たちが対応しますが、「ありがとう、優しいね」と声をかけると、「そんなことねぇよ」と照れくさそうに返してくれます。そうやって“誰かに認められる”ことで、自分の存在価値を感じられるようになる。それがとても大切なんだと思います。
江田さん:
はい、いらっしゃいます。感染症対策には気を配っていますが、「今日見に行ってもいいですか?」と気軽にお越しいただくのは全く問題ありません。ご家族も「様子を見たい」という気持ちがあると思いますので、安心して来ていただきたいです。
体幹トレーニングから軽スポーツまで楽しく取り組める運動を
HPに1日の流れが紹介されていましたが、レクリエーションではどんなことをされていますか?
江田さん:
レクリエーションは、介護福祉士や看護師、その日の担当スタッフが相談しながら、その日に合った内容を考えています。たとえば、ポッチャやモルックのような軽スポーツを行うこともありますし、介護士がオリジナルで考えた、色のついたタオルを使った運動や、みんなで体を動かす集団運動なども取り入れています。
その日の利用者さんの体調や様子を見て、「これならできそうかな?」「楽しくできるかな?」と考えながら実施しています。頭のトレーニングを希望される方には、色塗りや計算問題などの紙上トレーニングを個別に提供することもあります。
いずれは曜日ごとに内容を分けていくなど、もう少し体系的にできたらと思っていますが、今は「いろんなことをやってみよう」というスタンスで取り組んでいます。その中で「これ、楽しいね」と感じてもらえたら嬉しいです。
ちなみに、今朝は理学療法士による個別リハビリを受けている方、お風呂に入っている方、体幹を鍛えるトレーニングをしている方など、それぞれが自分のペースで過ごしていました。利用者さんごとに「どんなアプローチが良いかな」と理学療法士と話し合いながら、その方に合った内容を提供しています。
筋力トレーニングとして「ボクシング」なども含まれていて、楽しさも意識した内容になっています。
江田さん:
そうですね。それぞれの利用者さんに合ったものを提供するようにしています。試しにやってみますか? 体幹を鍛えるトレーニングなんですよ。
椅子の上にバランスクッションを置き、足を浮かせてバランスを取る動作を体験。
背筋を真っすぐ保ったままボールをキャッチします。
エアロバイクも体験中。
パンチングボールが左右に4回揺れる間に、上からバットで叩く反応トレーニングも体験。
なかなかタイミングが合わず苦戦
新村さん:
この赤いパンチングボールも、実はある障害の確認に使っているんです。「半側空間無視」という障害で、目では見えているのに、脳が認識できない状態。たとえば真ん中に線を引いてと言うと、左右どちらかに偏ってしまう方がいます。
そういった方は「見えている」と思っているので、「運転したい」と希望されることもあります。でも実際には見えていない(認識できていない)わけで、そのまま運転するととても危険です。事故を起こしてしまう方の中には、そうした認知のずれを抱えているケースがあるのではないかと思います。
さらに、一人暮らしの方だと、周囲に注意してくれる人がいないために、そのまま運転を続けてしまうこともあります。「高齢者の運転が危ない」とよく言われますが、問題は高齢者本人ではなく、その背景にあると思っています。
つまり、家族が止めてくれれば事故は防げますが、そもそも家族がいない方も多いんです。車がないと生活できない地域で、なおかつ高齢化が進んでいる。そうした方々は「じゃあ、どうやって暮らしていくの?」という課題に直面しています。
この問題は、個人や家庭の問題ではなく、地域全体の課題として向き合っていくべきだと、私は思っています。
「再出発」と「共に生きる」──地域に開かれた居場所のかたち
新村さん:
若い頃、僕はニートだった時期がありました。当時、自分なんて社会に必要ないんじゃないかと感じていて…。でも、そんな時に社会的弱者と呼ばれる方たちが、僕のことを受け入れてくれたんです。その経験がすごく大きくて、「恩返しがしたい」と思い、社会福祉士を目指すようになりました。
働きたくなかったわけじゃないんです。ただ、就職氷河期の真っ只中で、求人票を見ると「大卒以上」と書かれていることがほとんどで。僕は当時大学に行っていなかったので、それを見るたびに、自分を否定されているような感覚になっていました。
だからこそ、同じように「働きたいけど働けない」と感じている人たちが、踏み出せる場所をつくりたいと思ったんです。通所介護の現場って、資格がなくても働ける部分があるんですよ。もちろん、研修が必要な業務もありますが、掃除やお茶出しのようなことなら、資格がなくてもできます。
実際、精神の障害手帳を持っている方が、就労支援施設ではなく職員として、1日1時間だけ掃除の仕事をしてくれています。そうやって「少しだけ働く」「少しだけ関わる」という形でも、自分の役割を持てる。
“リスタート”という名前には、「自分の居場所になってほしい」「誰かの再出発の場になってほしい」という思いを込めています。それが、この施設を立ち上げた一番の理由です。
そういった方も、働ける場所を作りたかったということですね。
新村さん:
そうですね。病院で働いてきた経験と、高次脳機能障害の知識が組み合わさって、「リスタート」という形になった感じです。
それから、僕には「場所を作ること」自体にもこだわりがあって。たとえば「地域カフェ」も、介護とは関係なく始めたいと思っていたんです。
よく「オレンジカフェ」ってありますよね。認知症の人のための居場所としてのカフェ。でも、それって「認知症の人しか行っちゃいけないのかな?」って思ってしまう人も多い。だから僕は、“誰でも来られるカフェ”にしたかったんです。
あと、「子ども食堂」も、子どもだけじゃなくて、“誰でも食堂”みたいな形にしていきたいなと考えています。子どもも、大人も、高齢者も、誰でも気軽に来られる。そんな場所が、地域の中にもっと増えたらいいなと思っています。
誰もが“再出発”できる地域へ
「リスタート」という名前には、“もう一度ここから始めよう”という願いが込められています。
目に見えにくい障害や、社会から孤立してしまう人々。それは特別な誰かの話ではなく、いつか自分自身や家族が直面するかもしれない課題です。
だからこそ、目の前の一人ひとりに向き合い、「できない」を責めるのではなく、「どうすればできるか」を一緒に考える場所が必要なのだと、今回の取材を通じて強く感じました。
“楽しくなければ続かない”リハビリ、
“資格がなくてもできることがある”という就労の受け皿、
そして、“誰でも来られるカフェ”や“誰でも食堂”といった地域のつながり。
こうした一つひとつの取り組みが、人と人をやさしくつなぎ直し、「生きる力」をそっと後押ししてくれる。
リスタートは、そんな
地域にひらかれた“居場所”であり、再出発を受け止める場所でもあります。
誰かの「はじめの一歩」が、社会のあり方そのものを少しずつ変えていく。
そんな未来を、私たち自身も支えていけたら――。
そう思える時間となりました。
第8弾のインタビューはこちら